物知りヴィヴィオ
「ねぇ、なのはママ。赤ちゃんって、どこからくるの?」
その言葉で、なのはママ…と呼ばれた女性、高町なのはの動きが止まった。
聖王協会付属の学院に通い始めて一週間。人見知りらしい人見知りもなく、ヴィヴィオは多くの友達を作っていた。その結果として、今まで聴いたことのないような話を知る機会が多くなったヴィヴィオにとって、最近、学校で友達と話したことを自分の二人のママに話すことが彼女の日課となっていた。
「あの…ね…ヴィヴィオ…」
「ねぇ…どこからー?」
性教育の大切さを考えつつも、まだヴィヴィオは幼い。当然、男女のいろはについて、話すことははばかられる。当のなのはも花も恥らう(?)19歳。軽くそれらを口にはできない。
(こういうときは…)
「ただいまーあれ、二人とも、まだ起きてたんだ? ダメだよー、早く寝ない…」
「フェイトちゃん!」
「と?」
部屋に入ってくるなり、自分の名前を大声で呼ばれたフェイトは、語尾が思わず疑問形になってしまった。
(どうしたの?なのは…)
(それが…)
事の顛末を話し始めるなのは。思念通話なので、ヴィヴィオに聞かれることがないため、一安心。その結果として、一人だけ川に参加できてないヴィヴィオは小首をかしげている。
そして、これまでの経緯を伝え終わると、フェイトの顔色が変わっていた。
そう、真っ赤に。(え? あ…)
(もしかして、フェイトちゃん…)
(え? その、あの…基本的なことは知ってるんだよ? ホントだよ?)
(ということは…)
(ほら、あの、私のことは良いから、ヴィヴィオに…)
(あ、そうだった)
初々しいフェイトの反応に、なのはの生来のSっ気がつい反応してしまったが、今はそんなことはしている場合ではないと気づいたらしい。
(どうしよう? こういうときって、本当のことを教えたほうが良いのかな?)
(でも、まだヴィヴィオには早いよ…こういうことは順序を踏んで…)
(そうだよね…まずは、体の構造とか…)
(そういう直接的なことも…って、あれ?)
異変に気づいたのは、フェイトだった。見ると、さっきまで目を輝かせていた少女は、その年齢に見合った睡眠欲のおかげで、ベッドに突っ伏していた。
「「助かったー」」
二人の本音が思わず口から漏れた。
今日一日の何倍もの疲労を感じたこの数分間だったが…
「いけない、ヴィヴィオが風邪引いちゃう」
「今日は寒いからね。ヴィヴィオ用に小さい毛布も用意しようか?」「うん、お願い」
さすがに、そこは現役ママ二人。
クタクタになりながらも、自分たちの子供の面倒を見ることは忘れない。
翌日
「ねぇ、なのはママ?」
「な、なにかなぁー、ヴィヴィオ?」
「赤ちゃ…」
「そ、そういえば、今日はヴィヴィオ、学校お休みだよね? 何するのー?」
禁句とも言えるその言葉。しかも、今は食堂で朝食を食べてるところなので、TPO的にあまりよろしくない。
「え? うんとねー今日はー」
その後、なんとか会話をごまかしながら、朝食を終えたなのはだったが、一つ重大なことを忘れていた。
「それじゃ、ヴィヴィオ。なのはママ達はお仕事だから、そろそろ行くね。外に出ても良いけど、必ず誰かに伝えることと、暗くならないうちに帰ってくること。これは、なのはママとの約束だからね?後、食器はちゃんと自分でお方付けしようね?」
「はぁーい。いってらっしゃい」
いつものように、駆け足で去っていくなのはの後姿を見つめるヴィヴィオ。いつもならば、自分たちの部屋で絵を描いたり、アイナと遊んだりしている彼女だが、今日は自分の知識欲のため、そのどちらも選ばないことを決めていた。
最初の標的はフォワード陣の年少コンビのエリオとキャロ。彼らを選んだ基準がヴィヴィオから見て、年齢も近かったことなのかは定かではない。
「ねぇ、エリオ君、キャロさん」
「ん?」
「あれ?ヴィヴィオ、どうしたの?」
「んーとねー、聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと…? いいよ、何でも聞いて」
なんだろう、と思いつつも、そこは年長者として答えてあげなきゃ…というのが、二人の良いところである。しかし、その気持ちが裏目に出ることもあることを二人はこの後、痛感する。
「赤ちゃんって、どこからくるの?」
ピキっという音が聞こえてくるくらい硬直したのはエリオ。そして、エリオがキャロのほうを見ると、彼女はなんともないと言った感じの表情で彼を見る。その瞬間、まるで沸騰したかのようにエリオの顔は真っ赤になっていた。
「あ…あのね…ヴィヴィオ」
エリオの方は、そこそこの知識があるようで、完全に意識してしどろもどろになっているが…その一方、キャロは平然としている。
「簡単だよ、ヴィヴィオ。あのねー」
「ちょ、キャロ、ストップ!」
「え?」
(ど、どうしたの? エリオ君)
(あの…その…キャロは…)
子供の作り方知ってるの?とは、とても同年代の女の子には聞けない。
エリオはそんな多感な時期にさしかかっていた。
そのまま、口ごもるエリオに、ヴィヴィオだけでなく、キャロも首をかしげている…と、彼にとって救いの船がやってきた。
「あれ?どうしたの?」
「3人でいるなんて珍しいわね」
「スバルさん、ティアナさん!」
「え?え?」
「実は…」
これまでのいきさつを話すと、そこには年長者の威厳はなく。スバルとティアナの顔はエリオと同じく真っ赤になっていた。
(さぁーて、そろそろ仕事に…)
(あ、ずるい、ティアナ!私も…)
(二人とも、僕をおいていかないでくださいよ!)
(こういうことは男がリードしないと…)
(あ…やっぱりそうなの?)
(え? ま、まぁ、そうでしょ…普通)
(やっぱ、ティアナも経験…?)
(ま、まぁ、そりゃ人並みには…ねぇ?)
(二人ともー)
「あのー」
背後からかかる声に、思わず三人の肩がびくついた。
恐る恐る振り返ると、そこにヴィヴィオの姿はなく、キャロが一人で立っているだけだった。
「ヴィヴィオ、行っちゃいましたよ」
「「「はぁ〜」」」
その言葉に安堵した三人のため息が、よくわからないキャロはただただ首をかしげているだけだった。
「よお、ヴィヴィオ、こんなところで何やってるんだ?」
「ヴァイスさん、こんにちはー」
「おお、こんにちは」
「あのね、ちょっと聞きたいことがあって…」
「お、なんだ? 俺で良かったら聞くぜ」
「赤ちゃんって、どこからくるの?」
…いや、待て、ヴィヴィオは幼いとはいえ、立派な女だ。染色体はXXだ。なら、この問いには、染色体XYを持つものとして、答えなければならない…はずだ。と勝手な思い込みをしたヴァイスは屈んで、ヴィヴィオの肩に手を置いた。
「良いかい、ヴィヴィオ。おしべとめし…がはっ」
後ろからの突然の衝撃。そして、同時にやってくる思念通話。
(ヴァイスさん…少し、頭冷やそうか?)
(ひぃぃぃぃぃぃぃ)
なのはによる精密遠距離射撃により、後頭部に一発食らったヴァイスは、そのまま意識を失った。
その後…
「日ごろ、機動六課の健全なバストアップに貢献している私や。ここは、健全な性教育にも…」(はやて談)
「やめてください。わが主…」(シグナム談)
「アルト言いなよー」(ルキノ談)
「ルキノ言いなよー」(アルト談)
「あらあらうふふ」(アリシア談)
など、機動六課(?)のメンバーをことごとく撃沈させていった。
そして、夕暮れの中、ヴィヴィオは一人でたそがれていた。
結局、納得いく答えは得られず、今、彼女はここに至っていたのだ。
「ヴィヴィオー」
「あ…なのはママ」
いつもと違うヴィヴィオの反応に、なのはは一瞬で気づいた。
彼女が答えを得られなかったことに落ち込んでいることを。
やはり、ここは母親である自分が言わなければいけない。
この世界の真実…を。
「あのね、ヴィヴィ…」
「ヴィヴィオ!」
意を決して話そうとしたなのはの言葉をとめたもの、それは訓練帰りのフォワード陣の中でも一番小さいキャロのものだった。
キャロは訓練帰りの重い体を引きずって、足早に駆け寄ってくる。
「はぁはぁ。ごめんね、昼間は。それで、そのとき、聞かれたことなんだけど…」
緊張する一同。
そして、キャロの口から語られたのは…
「赤ちゃんはね…」
ごくっと、みながつばを飲む。
「コウノトリさんが運んで来るんだよ♪」
それは王道とも言うべき、決まりきった答え。
誰もが口に出せなかった表の真実とも言うべきものだった。
「コウノトリさん?」
「うん、すごく大きな鳥さんだって、フェイトさんが言ってた」
「そっかぁ…鳥さんかぁ」
目を輝かせるヴィヴィオ。
それをみなが暖かいまなざしで見ている。
そして、湧きあがる一つの疑問。
キャロは、本当のことを知っているのだろうか…?
まぁ、それは別のお話。
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最終更新時間:2008年03月08日 15時01分56秒