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第25話 ただいまなの

『…以上で、この事件の報告を終わる。 時空管理局本局 執務官 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン』

ふぅ…報告書を書き終えて、一息つく。久しぶりのデスクワークはさすがにこたえるな。

「フェイトさん…ちょっと良いですか…あれ?」

「ん?どうかした、ティアナ?」

「これって、あの事件の報告書ですか?」

「うん、そうだよ」

「あれから…もう、1ヶ月たったんですね…」

そう呟くティアナの表情は、その当事者だけが浮かべられる悲しみに満ちていた。

あれから…そう、スカリエッティとその一味…アリシア達と私たち機動六課が関わったレイ事件が終結して1ヶ月。

一時は終焉の危機に陥った世界も、今ではそれを微塵も感じさせないほど、いつもどおりだ。

レイの発動が止まった後、あたりを探したものの、アリシア、セロ、アキレスの3名は発見できなかった。爆発で跡形もなくなった…というのが公式の見解。だけど、どこかで生きていてくれてるんじゃないかと…淡い期待を私は捨てきれないでいる。

アコース査察官と民間人である高町恭也さんによって逮捕されたスカリエッティは、以前よりも厳重な監視下の元に置かれている。侵入者があれば、すぐにSランク魔導師が駆けつけるため、事件の時のようにはならないだろう。

あの事件に関わった私たちも、それぞれの日常を取り戻しつつある。

私は事件との関与とか、プロジェクトFのことなど、多くのことを査問委員会で問い詰められことに。だけど、三提督や騎士カリムなどが弁護してくださったおかげで、1ヶ月の停職処分ですむこととなった。そして、この報告書が復帰後の初仕事。

変化が少なかったのは、はやてや守護騎士のみんな。相変わらずいろいろなところに出張して、いつもどおりに仕事をこなしている。

フォワード陣はエリオが怪我のせいで2週間くらい入院したほかは軽症で、各自が持ち場に戻っていった。ティアナも今ではすっかり元気になっている。

「それじゃ、ティアナ。私、そろそろ行くね」

「あ…はい。…お気をつけて」

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コンコン

「はーい」

ドアを開けて、病室の中に入る。

中には、返事をしてくれたヴィヴィオと…なのはがいた。

「フェイトママ!」

ヴィヴィオが私に向かって駆け出してくる。

「ありがとね、ヴィヴィオ。なのはママを見てくれて」

「えへへ」

ヴィヴィオと一緒にベッドの横に来る。

そこには、あれからずっと昏睡状態のなのはが眠っていた。

ブラスター4で一時的に増幅させた魔力は人の枠の中に収まりきるものではなかったらしく、あの戦いの直後のなのはの体は全身ボロボロだった。シャマルの24時間つきっきりの治療によって、なんとか一命をとりとめ、その傷が癒えた今となっても意識は戻らないままだ。

「じゃあ、お花替えようか。ヴィヴィオ、手伝ってくれる?」

「うん!」

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ここは…どこ?

周りには何も見えない。

きょろきょろとあたりを見渡す。

あれ?私は誰を探してるんだろう?

考えてみても、その答えは一向に見当たらない。

暗いよ…怖いよ…

一人は寂しいよ…

子供のようにひざを抱えて、目をつぶる。

いっそのこと、何も見ようとしなければ孤独を感じることすらない。

私はそう考えた。

「…は…?」

突然の声に目を開ける。

しかし、そこにあったのは暗闇。さっきと何も変わらない世界。

気のせい…?

「あなたは…誰?」

今度ははっきり聞こえた。

「私は…高町…なのは…。あなたは?」

「…」

その声は聞き取りにくくて、はっきりと聞こえなかった。

声は姿を見せないまま、私に質問を続けた。

「あなたはなぜこんなところにいるの?」

「…一人…だから?」

「あなたはなぜ一人なの…?」

「…わからない…」

私の答えに、声はため息を一つついた。

「一人にならない方法…知ってる?」

「一人に…ならない方法?」

「そう」

私は首をふるふると横にふった。

だって、そんな方法があるなら、私は一人じゃないはずだから。

「友達に…なれば良いんだよ」

「とも…だち…?…無理だよ…」

「なんで?」

「だって、私…どうしたら友達になれるかわからないから…」

「…簡単だよ」

「え?」

「友達になるの、凄く簡単。…名前を呼んで」

「名前?」

「そう。あなたとか、君とかそういうのじゃなくって、相手の目を見てはっきり相手の名前を呼ぶの。私の名前を呼んで、なのは」

暗闇から差し出された手。

なんでだろう、その瞬間、一つの単語が私の中に浮かんできた。

「うん」

その手を握り締め、私は…その人の名前を呼んだ。

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…ここは?

視線の先には白い天井。

あれ?この景色…見覚えがある。

ここって…聖王教会の病室…。

そっか…私、あのまま眠っちゃってたのか…

意識がはっきりしてくるにしたがって、体の感覚も戻ってきたのか、左手が妙に温かいことに気づいた。

見ると、その手は一人の女性に握られていた。

夕日が反射して光る金色の髪。

フェイト…ちゃん。

「ん…」

かすかに力の入った左手の感触に気づいたのか、フェイトちゃんが目を覚ました。

「いけない…わた…」

目と目とがあって、数秒。

「なのは!?」

止まった時間が動き出すかのように瞳に涙をためたフェイトちゃんが、私の名前を呼んだ。

「うん、フェイト…ちゃん」

「なのは…なのはぁ…!?」

フェイトちゃんがぽろぽろ泣きながら、私に抱きついてくる。

「あー、もう。何で泣くかなぁ…フェイトちゃん」

「だって…だって…」

泣きじゃくるフェイトちゃんの髪をあまり自由に動かない右手でなでる。

「おかえり…なのは…」

フェイトちゃんが言ったのは、いつもの言葉。

だから、私もいつもと同じように言葉を返した。

「うん…ただいま、フェイトちゃん」

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最終更新時間:2008年06月17日 01時25分52秒