「全滅…だと…」 スカリエッティは信じられない…といった目でモニターを見つめる。 「ふふ…まさか、アリシアに記憶が宿っていたとは…な…。実に愉快 この上ない」 「アリシア…」 アリシアが止まってくれた…。ありがとう…アリシア。 「これで、お前の企みも終わりだ」 「くっくっく…果たして、そうかな?」 「何を…」 「まだ、私には君という切り札がいるではないか…フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官?」 切り札…私…? 「君に絶望を見せるために、今まで放っておいたが、もうそういうわ けにはいかない。君を改造して、彼女達に対抗させる。そのための準 備はもう…できている」 そう言うと、スカリエッティは懐から注射器を取り出した。 「くっ…」 なんとか、拘束をはずそうとするが、それもうまくいかない。 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる。 「安心したまえ。これはただの麻酔薬だよ。もっとも、君が次に目覚めたときには、今の君ではなくなっているだろうがな」 「それは困るな」 聞き覚えのある声が、スカリエッティの後ろからした。 緑の髪…あの人は… 「アコース査察官!」 「バカな…どうやって、ここまで…」 「この場所なら、君自身に聞いたんだよ…管理局の拘置所にいたとき、君の頭の中をちょいと査察させてもらったのさ」 「くっ…だとしても、この建物の中はいたるところに機械兵器が配置されている…それを魔法を使わず突破してきたとでも言うのか?」 「…確かに、僕達のように魔法文化に慣れている者達には無理だろうね。だが…彼なら、それが可能だ」 その声に呼ばれたかのように暗闇から一人の男が姿を現す。 黒い髪に黒い瞳。 手にしているのは、銀色に輝く刃…。 「たった一人で…100機以上の機械兵器を破壊したというのか…しか も、そんな古めかしい剣2本で!?」 驚きに包まれるスカリエッティに男が告げる。 「それができるのが日本刀という武器で…それを扱えるのが…」 男は銀色に輝く刃を鞘に収めた。 「御神の剣士だ」 「…御神の…剣士だと…!お前は、一体…」 「小太刀二刀不破流…高町恭也」 高町…もしかして、なのはの…お兄さん? 「高町…またしても、高町の名を持つものに邪魔されると言うことか…」 スカリエッティが、目の前にウィンドウを出現させ、何かを打ち込む。 と同時に地面が揺れ始めた。 「スカリエッティ!何をした!?」 「自爆装置だよ。レイの覚醒を見ることができないのは残念だが、君達を彼ら…機動六課に合流させると厄介だからね。ここで、足止めさせてもらう。それと同時に…」 スカリエッティの笑みが、より邪悪なものになった。 「私が送り込んだ戦闘機人二人とアリシアには特別な処置がしてあってね。自爆装置が作動すると同時に、すでに仕込んでおいた魔力タンクを利用したレイの術式が発動、彼女達自身がレイの生贄になるようにしてある。未完成の術式とはいえ、わずかな時間でも世界の一つや二つは消してくれるだろう!一矢報いるというわけだ…はははーーーーーーぐっ…」 恭也さんが、スカリエッティに当て身をして気絶させ、アコース査察 官に受け渡した。 「自爆すると言うなら、ここに残るわけには行かない。一刻も早くここを出よう」 「そうだね。どうやら、もたもたしている暇はなさそうだ」 ふと、恭也さんと目が合った。確かに、なのはにちょっと似ている…かも。 「大丈夫か?」 「あ…はい。助けていただいて、ありがとうございます」 「妹が世話になってる。これくらいはお安い御用だ」 そうだ…なのは…それにアリシア…私が、私が止めないと! 「あの…ここから一番近い転送ポートまで連れて行ってください。 私、早く行かないと!」 恭也さんが、私の眼をじっと見つめる。 「話は一通り聞いた。今、なのはと戦っているのは君のお姉さんなんだろ?なら、君にとって、辛い戦いになるんじゃないか?」 確かにそうだ…私はアリシアと戦えるのか…いや、それでも… 「なのはを助けなきゃ…友達だから」 私の言葉に、恭也さんがにっこりと笑った。 「しっかり、つかまっていろ。ここでは、俺より…御神より早く動ける人間はいない。俺が君を誰よりも早くそこまで連れて行ってやる」 「…はい…」 そうやって、差し伸べられた手は、昔、私を暗闇から救い出してくれ た手に似ていた。 --------------- 落下していくアリシアさんを助けようと、追いかける。 あと少し… アリシアさんの手をつかもうと手を伸ばす。その瞬間、地面が光りだ を放ち、その光の柱にアリシアさんがのみこまれた。 見ると、光の柱はここだけではなく、他の場所にも2本あった。 もしかして、これがレイの発動…でも、発動条件はクリアされてないはず。 なら、なんで… 『こちら、機動六課ロングアーチ2.なのはさん、応答お願いします』 通信…?通信は妨害されてるはずじゃ… 「こちら、スターズ1。高町なのはです」 『なのはさんですか?良かった…つながった…』 「シャーリー…これは、一体、どういうこと?」 『少し前、スターズ隊とは別行動で動いていたアコース査察官のチームが、フェイトさんの救出に成功しました』 「フェイトちゃんが!?無事なの!?」 『はい。怪我もかすり傷程度だそうです』 「良かった…」 『しかし、その直後にスカリエッティがあらかじめ用意しておいたレ イの発動プログラムを起動させたらしく…』 「もしかして、他の場所で門が…」 『いえ、門はあらかじめ開いていた海鳴海浜公園のひとつだけです… ですけど…』 『ここからは、僕が説明するよ』 「ユーノ君?」 『あれから、僕も自分なりに調べてみたんだけど、レイの発動にとっ て最も重要なものは、門ではなく人。魔力エネルギーのことだったん だ』 「魔力エネルギー…」 『なのはは、闇の書事件のことは覚えているよね?』 「うん…」 『あの事件は、闇の書に魔導師の魔力を吸収し、蓄えていた。そのシステムを利用して、スカリエッティは体外に魔力を貯蔵しておく魔力タンクの開発に成功したらしい。そして…』 「その魔力タンクを組み込まれたのが、今回の私たちの敵だった」 『そのとおり。そして、その魔力を生贄にレイが発動された…そして、一つだけとはいえ、門は開いている。おそらく、発動をとめる術はない』 「そんな…」 『だけど…全く手がないわけじゃない。発動をとめられなかったとしても…レイ本体を止めてしまえば良いんだ』 「レイ本体を…止める…?」 『レイは巨大な召還獣の類だ。キャロのヴォルテールを遥かに凌ぐくらいのね。完全に姿を地上に出したら、僕らには勝ち目はない。だけど、門が開ききっていないから、召喚する場所は狭くなり、通常よりも召喚に時間がかかる。レイは元より膨大な魔力を必要とする召喚獣だから、一定時間しか召喚することはできないと思う。その間だけで良い、レイを押し返すんだ!』 「押し返す…?押し返すって、どうやって?」 『全力全開!手加減なしで、思いっきりぶっ飛ばして!!』 「!」 思わず顔がにやける。あの時も、こう答えたっけ… 「さっすが、ユーノ君。わっかりやすい!!」